名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「今度、困ったら……」


うん、と相づちを打とうとしたのに、口の中がからからに乾いて声が出ない。喉がひりついている。


息苦しさを無理矢理飲み込んだら、絡みつくような鋭い痛みと鈍い圧迫感につかえた。

……ああ、なんだか心臓もうるさい。


浅く息を吐いて、ぎゅっと拳を握った。


「……まっさきに……」


無声音で動いたそうちゃんの口が、練習するように、うわごとのように、人の名前の形に何度も動く。


深く息を吸って、引き結んだ唇を、開けて。


「……真っ先にみ、っ、……さ、とうさん、に、言うことにする」


ひどく途切れ途切れの言葉が、ゆっくり落ちた。


「っ」


今。今わたしを佐藤さんって言った。名前、呼んでくれた……!


絞り出された言葉に、ぱっと表情が明るくなるのを抑えられない。


み、って言いかけたのは美里? みいちゃん?


どっちでも構わない。なんだっていい。

わたしを指すんだって分かる固有名詞なら、なんだって。


そうちゃんがわたしを呼んだ。


頑なにお互いを呼ばなかった、さらには必要以上話しかけもしなかった年月が崩れ去る予感が、した。