名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「友達がいがないなあ」


努めて明るくそう言うと、瞠目したそうちゃんは、ふっと優しく口元をほころばせた。


「友達じゃなくて幼なじみだろ、俺らは」

「じゃあ幼なじみがい」

「なんだその甲斐性」


含み笑いをするそうちゃんは楽しげだ。


笑顔なんて久しぶりに見た。


くすくす、わたしもつられて笑い返す。


「じゃあ、今度困ったら真っ先におま、」

「っ」


息を飲んだわたしに気づいたのか気づいていないのか、そうちゃんが口をきつく結んだ。


……お前、と言おうとしたのだろうか。


長い間抜かし続けてきた主語を、わたしの愛称か名前を、呼ぼうと、したのだろうか。


不自然に途切れたままの発言に、そっと手元からゆっくり視線を上げる。


そうちゃんは深くうつむいて唇を噛んでいた。


表情は見えない。


……後悔してる? 苛立ってる?


呼吸を整えるように口唇を薄く開け閉めするのだけがかろうじて見えて、心がざわめく。


そうちゃんは長い間わたしを呼ばなかった。

わたしも長い間そうちゃんを呼ばなかった。


わたしはたまたま作っちゃった流れを今さら変えられなくて、だけど。


そうちゃんは、わたしの名前を呼びたくないからだったの?


偶然なんかじゃ、なかったのかな。


パチンパチン、お互いホチキスをとめる音だけがやまない。


気まずさがこみ上げる沈黙を破ったのは、そうちゃんだった。