ひゅ、と息を飲んだわたしを、そうちゃんは静かに見る。


「悪いけど」


わたしを流し見て、またすぐ鞄に向き直った。


「お前にソウって呼ばれるのは嫌だ」


ものすごく不機嫌な声音が落ちる。


「えー、なんでだよ」

「なんかキモい。絶対嫌だ」

「ひどっ」


どっとみんなが沸く。


「このやろー!」


その男子は、奏汰、と元通りに呼んだ。


……あれ。


「そんなわけで、そうちゃんって呼ぶのもなしな」

「えー! あたしが呼ぶとキモいってかー!」

「キモくないけどすごい違和感」

「ひどいソウちゃーん」

「だからやめろっつの」

「はーい」


その女子は、奏汰、と元通りに呼んだ。


……あれ。


「じゃあ帰るわ」

「おー」

「じゃあね、奏汰」

「ん」


あ、れ。


そうちゃんはすたすたとこちらに歩いてきて、わたしの視界をその大きな体で埋めて言った。


「帰るよ」

「あ、うん……!」


さらっと捕まえられた手を引かれて体が傾いたので、慌てて追いかける。


……ねえ。もしかして。

もしかして、さ。


名前、守って、くれた?