名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「美里の一つちょうだい」

「いいけど」

「くれたら一つカツあげる」

「よしそうちゃんの好きな唐揚げをあげよう!」


カツにつられてるけどいいんだ。

あったかくて美味しいからいいんだ。


上機嫌に唐揚げをお箸でつまむと、器用に顔を近づけて、ぱくんと食べた。


静かに咀嚼(そしゃく)。


そうちゃんは食べるのは早いのに、噛むのはゆっくりなのか、咀嚼音がしない。


飲み込むのに合わせて喉ぼとけが動いた。


「美恵子さん、相変わらず唐揚げ上手いね」


でしょ、と頬が緩む。


「ね、美味しいよね。わたし、お母さんの唐揚げ好き」


さすがそうちゃん、分かっている。


お母さんの唐揚げは、それはもう頬が落ちそうなほど美味しい。身内の欲目かもしれないけど、美味しいからいいのだ。


ふふふ、と笑いがもれたわたしに、そうちゃんも優しく笑った。


わたしはそうちゃんのお母さんを、おばさんと呼ぶ。

そうちゃんはわたしのお母さんを、おばさんじゃなくて、美恵子(みえこ)さんと呼ぶ。


いつもそうちゃんが美恵子さんと呼ぶ度に、くすぐったくなったものだった。もちろん今も。


わたしの美里という名前は、お母さんの美恵子の「み」と、お父さんの智史(さとし)の「さと」から取ったものだ。

美智子さんというおばさんがいるから、智は使わなかったらしい。


里美じゃないのは、お母さんが自分と同じ、美で始まる名前にしたいと言ったから。


小さいころから何度も聞いた、少し照れくさくて、大事で、大好きな由来を、こうしてときどき、ふと思い出す。