名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

一人で帰るなんて言うなよ、とは言われたことあるけど。

一緒に帰ろう、って声をかけられたことはあるけど。


一緒に帰るものだ、みたいな認識があったせいか、そうちゃんが望んで……というとちょっと言いすぎだけど、放課後にならないうちから一緒に帰る約束をしたことなんてなかった。


え。あれ。


……どうしよう、嬉しい。


喜びを噛みしめるあまり、ふわふわした足取りでちゃんと注意が向いていなかったんだけど、わたしはいつの間にか着席していた。


食券をおばさんに提示して、並んで待って、そうちゃんがカツカレーののったトレイを受け取って、とっておいてくれた席に向かい合わせに座るところまで、無意識にこなしていたらしい。


「美里、食べないの」

「や、食べる」


はっとして、悲しくお弁当を広げる。


しっかし。最終的にはわたしが了承したんだけど、やっぱりちょっと切ない。


なんであったかいご飯食べてる人を見ながら冷たいご飯を食べなきゃいけないのだろうか、わたしは。


「……怒ってる?」


湯気が上るカツをかじったそうちゃんが、ちらり、わたしを見た。


「別に。怒ってないよ」

「そう?」

「そう」


頷きつつ唐揚げをかじる。冷たい。


「…………」

「…………」


そうちゃんは少し気まずそうに、視線を泳がせた。