名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~

「ねえそうちゃん、ごめん、お財布は貸すから……」


一人で行ってきて、とはなかなか言いにくくて言葉尻を濁したわたしに、ゆっくり振り向く。


目が、合って。


そろりと、わたしは小さく唇を噛んだ。


この、幼なじみは。そうちゃんは。


なんて目を、してるんだ。


見上げた先で、ひどく切なげに揺れる瞳が、そうっとわたしを映していた。


「ごめん。強引だったのは謝る。ごめん」


低く抑えて嗄れた声が降る。


……くそう、だから嫌いになれない。そうちゃんはまず真っ先に謝るから。


「約束とか、あった?」

「……ないよ」


問いかけに首を振る。


友達と食べる約束をしていたら、最初に言う。


いつも一緒に食べる友達はいるけど、別に、約束をしているわけじゃない。


用事があったり、部活の人と食べたりするときも、お互い申告しないで自由に食べる。


都合が合うようなら声をかけて一緒に食べる、という、割とあっさりした感じなのだ。


「じゃあ、さ」


ぽつりと、揺れてかすれた声が落ちた。


「……俺と一緒に食べるのが、嫌だった?」