「……何でもない。じゃあ、また明日」

「うん。また明日ね」


そう言って扉を開けたものの、そうちゃんが何を言おうとしたのかやっぱり気になって、扉を押さえたまま振り返ると。


そうちゃんとばっちり目が合って、「いいから早く入りなよ」と横を向いて言われてしまった。


「あ、うん」


今度こそ扉を開けて中に入れば、わたしが扉を閉めてから足音が聞こえる。


うちの扉が閉まる音に、お隣の扉が開く音が重なった。


リビングに向かってただいまを言いながら、階段を駆け上がる。


……ぼすん。


布団の柔らかな冷たさが、ほてった体にちょうどいい。


余韻を噛みしめてベッドに倒れ込んだところで、スマホからそうちゃんの通知音が鳴る。


今日たくさん見たあの青たちみたいな、涼やかな音。


慌てて確認すると、新着メッセージが一件来ていた。


……なんだろ。


さっき呼びとめられたし、何か言い忘れたことでもあったのかなあ。


何の気なしに開いたそこに。


『今日は楽しかった。
           』


そんなことが、書いてあって。


「っ」


短い一言に頬が緩む。


消し忘れたらしい改行の先に、そうちゃんは何を書こうとしたんだろう。


次の約束のことかな。

おやすみ、かな。

それとも、何かを打とうとして結局何も打たなかったんだろうか。


空白を埋める言葉は何でもよかった。


「……そうちゃん……」


改行があるだけで今は充分幸せだ、と思った。