学校に着いてから午前中の授業中、女の子は大人しく僕の隣で体育座りをしていた。
時々話しかけてきたが、その都度僕のノートの端に返事を書いて話をした。
内容は勉強は楽しいかとか、兄弟はいるのかとか、たわいない俗にいう世間話みたいなもんだった。
昼休みになり僕は隣のクラスのしずくに声を掛け屋上に上がった。
正直に言って子供は苦手なんだ。
まぁ僕も一般的には子供なのだが、自分より年下の、しかも女の子となんて、どうしたらいいのかわからない。
女の子はずっと僕らの後ろを歩いて付いて来た。
屋上に上がると今日は天気も良いせいかチラホラ人影が見えた。
その人影を避ける様に僕らは端っこのベンチに座った。
女の子は僕らの間にスッと入り込んだ。
人一人分開けて座る僕達は、周りから見れば仲が良いのか悪いのかわからない二人なんだろうと思った。
「ここにいるの?」
「うん。しずくも知ってると思うんだけど…。」
「澤田 花乃ちゃん?」
女の子は自分の名前を呼ばれ反射的のか元気良く返事をした。
「お姉ちゃんの名前なんていうの?」
「しずくの名前聞いてる。」
「私は世良しずくっていうの。椋とは幼馴染なの。」
「ふ〜ん。」
「僕の名前は神倉 椋。で、君は澤田 花乃で間違いないよね?」
「うん。」
「じゃ本題なんだけど、どうして自殺したの?自殺したのは覚えてる?」
「……うん。」
「僕のところに来る人は自殺してこの世に未練がある人なんだ。君も未練があるから僕のところに来たんだと思ってるんだ。」
「ちょっと椋こっち来て。」
花乃の返事を聞く前に、しずくに腕を引かれた。
「なに?」
「椋ってば知らないの?」
少し怒ってる様にも思えた。
「だから何が?」
「花乃ちゃんはイジメが原因で死んじゃったの!」
「イジメ?小学生で?」
「椋はニュース見ないもんね…余計な情報入ると大変だもんね。今朝からどこもかしこも、花乃ちゃんのニュースやってて…。」
しずくはニュースを思い出したのか辛そうな顔をした。
「でもイジメぐらいで…。」
「ぐらいって何!!イジメって凄く卑怯な事なんだよ!それをたった小学6年生でなんて可哀想じゃない。」
しずくは今にも泣きそうになっている。
「あっごめん。そうだよな。ごめん。」
「もう少しあの子はの気持ち考えて話してあげて。」
「うん。わかった。」
僕らの心配そうに見ている花乃のところに戻ると僕はまた、話しかけた。
「今しずくから聞いた。僕は言葉を選んで話すのが少し苦手なんだ。もしかしたら花乃を傷付けてしまうかもしれないけど、その時はごめんね。」
花乃はコクンと頷いた。
「死んじゃったのは悲しい事だったと僕は思うんだ。花乃は後悔してないの?」
「してない。」
「そっか。じゃ未練は何もないの?」
「………。」
花乃は確信を聞いたりすると黙ってしまう。
「時間はあるから、焦ることはないよ。思い出すのも辛いだろうから、ゆっくりでいいから。」
「真乃ちゃん…。」
「えっ?」
「ううん。なんでもない。」
僕はその声を聞き逃した。
ポケットの中で携帯が震えた。
開けると、そばに居るしずくからのメールだった。
【今、花乃ちゃん…真乃ちゃんって言ったよ。】
僕はしずくを見た。
しずくは小さく頷いた。
「花乃は兄弟居るの?」
やっぱりまた黙ったままだ。
「さっき僕に聞いたから、花乃はいるのかなって思ったんだけど?」
「……いる。」
「そっか、お兄ちゃん?」
花乃は首を振った。
「じゃお姉ちゃん?」
花乃は黙ったまま頷いた。
「そっか、僕はさっき言った通り一人っ子だから、兄弟ってわかんないんだ。花乃はお姉ちゃんが好き?」
僕は地雷を踏んだのかもしれない。
花乃は突然ダムが決壊したかの様に泣き出した。
「えっ花乃!?」
慌てた僕を見て、しずくがどうしたと聞いてきた。
会話を言うと、しずくは小声で「私が話そうか?」と言った。
僕はしずくに任せようと頷いた。
「花乃ちゃん…お姉ちゃん好きだったんだね。お姉ちゃんもね、妹が居るの。10歳も離れてるから、まだ小さいんだ。まだ4歳。花乃ちゃんよりもずっと下なの。花乃ちゃんとお姉ちゃんは何歳離れてるの?」
泣いていた花乃は、しずくの話を聞いていて、いつの間にか泣き止んでいた。
「お姉ちゃんは18歳。花乃と6歳違うの…凄く好きだった。」
椋はしずくに伝えた。
「そっか。」
「私ね、今の花乃ちゃんの言葉、少し気になっちゃったんだけど聞いていいかな?」
花乃が頷いたので、僕も頷いた。
しずくはどうしてこんなにも相手に寄り添える言葉を言えるんだろう?
「好きだったって言ったけど、どうして過去形なの?今は好きじゃないの?」
嫌いなのって聞かないんだ…僕なら聞いてしまうだろう。
「お姉ちゃんは花乃が嫌いなの…。」
「そんな事ないよ。」
「しずくお姉ちゃんにはわからない。」
「じゃ教えて。わからないなら、教えて欲しい。花乃ちゃんが何苦しんだのか、何が辛かったのか。少しでも花乃ちゃんの力になりたいの。」
「それは椋お兄ちゃんの為なんでしょ?」
小学6年生って言っても、女なんだと思った。
僕の通訳が二人の会話を可能にしてるけれど、僕が居ないほうが良かったのかと思った。
「それもある。でもね、花乃ちゃんの苦しみもなくしてあげたいの!」
また花乃は黙ってしまった。
答えを聞きたくて僕を見る、しずくに僕は首を横に振るしかなかった。