「でもね純白……」


スッと表情を暗くして、杏里があたしを見る。


「あたし、人を好きになった事がほとんどなくて、どうすればいいかわからなくて……」


「でも、名前も学校名もわかるんだよね? お財布のお礼をしに行ったらいいじゃん」


「それは……そうなんだけど……」


モジモジしてうつむいてしまう杏里。


相手の学校まで行くことも、相手に会う事も恥ずかしいのかもしれない。


極度の人見知りな杏里が、相手にそこまで聞けただけでもすごい事だ。


「やってみないと、なにも始まらないよ?」


あたしはそんな杏里の背中を押す。


「だけど……」


「相手だって杏里からのお礼を待っているかもしれないよ? もしかしたら、杏里が可愛いから丁寧に財布を届けてくれたのかも!」


「そ、そんなことない!」


あたしの言葉に杏里はますます赤くなる。


だけど、少しだけ勇気が出て来たみたいだ。


「やってみなきゃ、わかんないよね。それに、お礼するのは当然だし」


自分に言い聞かせるようにそう言い、杏里は頷いた。


やってみなきゃわからない……。


そうだよ杏里。


なにが起こるかなんて、やってみなきゃわからないんだよ。


だからね……我慢なんて……しなくていいの……。