病室の中での宿泊はできないため、家族用の部屋に1人だけ泊まる事が許された。


「俺が泊まる」


真っ先に颯が言う。


しかし、家族宿泊室を利用できるのは女性のみという規定があるらしく、結局お母さんが1人で泊まることになったようだ。


病院を出るすっかり日が落ちていて、颯の目は真っ赤に充血していた。


あたしも颯の涙でもらい泣きしてしまったけれど、悲しむ気持ちは微塵にもなかった。


「純白ちゃん、タクシーで帰りなさい」


サイフから千円札を数枚抜きとり、あたしにそう言うお父さん。


あたしは慌てて「大丈夫ですから」と、首をふった。


「だけど、颯が君を呼んだんだろう? 帰りくらいこちらで用意させてくれないか?」


そう言い、お父さんは優しく微笑む。


それでもあたしは一瞬迷い、それから「じゃぁ、甘えさせていただきます」と、両手でお金を受け取った。


「それじゃ、気をつけて」


そう言い、歩き出すお父さん。


颯はあたしに何も言わず、その後ろを歩いて行ったのだった。