「べ、別に……。用事があって来ただけ」


そう言い、希彩ちゃんはあたしを通り越して歩き出す。


しかし、ここがどこかわからないようで、十字路で立ち止まって周囲を見回している。


あたしは足音を立てないよう、そっと希彩ちゃんの後ろに立った。


近くの信号機が切り替わり、立て続けに車が走って行く。


「あたしは希彩ちゃんに用事があるわ」


「へ?」


振り返る希彩ちゃんの背中をあたしは強く押していた。


希彩ちゃんは体のバランスを崩し、十字路へと足を踏み出す。


あたしはきびすを返し、歩き出した。


途端にブレーキ音が響き渡り、何かにぶつかる音が聞こえてくる。


しかしあたしは一度も振り返ることなく、その場を後にしたのだった。