杏里はあたしの手を握りしめた。


「それなら、その映像は作り物かもしれないね」


「え?」


あたしは驚いて目を見開く。


「先輩は純白が自分の部屋に監視カメラを仕掛けたことに気が付いた。だから、驚かせるために演出をしているのかも」


杏里はそう言い、握りしめる手に力を込めた。


その手は、もう震えてはいなかった。


「だから、純白は悩む必要なんてどこにもない。すべて先輩の演技なんだから」


演技……。


あたしはカメラの映像を思い出す。


鮮明な血に、白目をむいた女の死体。


あれは偽物なんかじゃない、本物だ。


「先輩の演技に騙されないためにはどうしたらいいか、わかる?」


その問いに、あたしは首をふった。


「カメラをもう二度と見ない事だよ」


杏里の声が、静かな空き教室に響いたのだった。