クラクションの音で、俺は我に返った。そして、アクセルを踏み込み、勤務先の高校への道を走るために、ハンドルを切った。

サヤ。あれが、最後の対面になった。俺はすぐに留学をし、サヤはあんなに好きだったツーリングに、出産前最後の参加として、車で見学しに出かけ、不幸な事故に巻き込まれ、命を失った。そのとき、真生が8か月の未熟児として、帝王切開で生まれ、母体から切り離されることで、新しい命へとサヤの命は受け継がれた。俺が全てを知ったのは、留学先だった。涙も出ないほどの衝撃で、帰国してからの墓参りでも、涙はついに流れずじまいだった。

ああ、俺の人生は、3年前のハロウィンで、凍って永遠に死と結び付けられてしまった……。

俺は、ブレーキを踏んだ。信号待ちのためだった。待ちながら、徒歩や自転車で登校する生徒たちを見ながら、ふと気付いた。

なんだか、デカい荷物を持った生徒がいたような……気のせいか?

飯森のような気がする……飯森沙也。サヤと同姓同名の、あの女子生徒。

そこまで考えた時、俺は自分の口元に自然に笑みが浮かんでいるのに気付いた。

信号が青に変わった。俺は、アクセルを踏み込んだ。

飯森、か……。今日は何をしでかしてくれるんだか。

俺はにっと微笑んだ。サヤのように。忘れていた、ハロウィンの日の笑顔。
その時の俺は、知らなかった。俺の人生が、今日ようやく再び時を刻みだすということを。


奇跡まで、あと10時間……。

(了)