廊下を通っても、もう攻撃されることはなかった。
それどころか、悪口さえ言われない。
ただ、生徒たちの興味の視線は感じるが。
本当にどうしちまったのか。
気になりすぎて、腹が立つけどその辺りにいる奴に聞こうかと思った時……
「戸崎さん」
最近、俺をかき乱すその声が聞こえた。
胸の高鳴りを抑えて振り向く俺。
そこにはやっぱり山形が立っていて。
少し複雑な顔をして俺を見ていた。
戸崎さん。
山形は俺をそう呼んだ。
山形に関しては今まで通りで、何ら変わったこともない。
昨日、俺を戸崎と呼んだこと。
やっぱりあれは偶然だよな。
そう思うことにした。
いや、そう思わないとやってられない。
山形には死んでもバレたくない。
俺が女装してるってこと。
言葉に困った俺は、
「……あれから大丈夫だったか?」
山形に聞く。
山形は頬を緩めて俺を見る。
あー、こんな幸せな女みたいな山形の顔、苦手だ。
心が掻き乱される。
「うん。戸崎さんのおかげで。
本当にありがとう」
「それなら良かった」
どぎまぎしながら答える俺。
かっこ悪い俺。
山形一人に何動揺してんだよ。
百戦練磨のくせに。



