「りょーたっ」


「玲未(レミ)…あ、凜華(リンカ)か、どした?」



その台詞(ことば)を聞く度、どうにかならないかなぁ、と思う。


玲未は涼ちゃん、私は涼太(リョウタ)って呼ぶようにちゃんと決めてるっていうのに。



「古典の教科書忘れた。貸して」


わざとふてくされたように言うけどそんなの涼太には通じない。この鈍感野郎。


「ほい。ところで玲未は?お前ら一緒にきたんじゃねえの?」


「今日は玲美が寝坊したから先来た」

「はっ、寝坊とか玲未らしいや」


そこで、置いてきちゃうとか凜華らしいや、の一つでも言えないものだろうか。


そしたらもう満足なのに、さ。



「それにしても似てるなあ、さすが一卵性」


そう。

私と玲未は双子の姉妹。


涼太がさっき間違えたのもそういうわけだ。
いやだからといって、しょうがないとは思わないよ?だって涼太と玲未は、かれこれもう半年も付き合ってるんだから。


こんなふうにいったら、どんだけ最低な彼氏なの?って思われるかもしれないけど
実際涼太はそういうとこに気を配らない人なのだ。

で、そんな涼太に惚れちゃったのも告白したのも玲未なわけで、私はどちらにも非があると思ってる。


「…ね、じゃあなんで、私じゃなくて玲未なの?」


我ながら最低なこと聞いてるな、とは思ったけど聞かずにはいられなかった。


涼太は考えたように腕を組むと、(いや実際全く考えてないんだろうけど)少しして


「だって玲未は玲未で、凜華は凜華じゃん」


と言った。


普通のことを言っただけな気がするんだけど…


不満そうな顔にようやく気付いたか涼太は「要は、」と付け足した。


「今俺が話してる相手は凜華であって、それは玲未じゃないじゃん。それぞれ考えてることとか感じてることは違うんだから、玲未だったらこういう話しないかもじゃん?わかる?」



わかるようでわからない。

はたしていい話なのか。


「ん、まあ、わかった」


持て余した右手で教科書のページをパラパラしていると

「そういうのも玲未はやらないよ」

と苦笑いした。




「やーっ、おくれたぁぁぁあ!凜華なんで起こしてくれなかったのー!!」


ようやくの玲未の登場に涼太が少し口角をあげた。本人は全く気付いていないだろうけれど。


「あんたねぇ!今日の朝食当番玲未だったんだからね!私が作ったんだから少しくらい感謝しなさいよ!」


「えっ!?あ、ありがとう」


走ったせいでぐしゃぐしゃの前髪を手ぐしで梳かしながら玲未は涼太を見て

「おはよう、何話してたの?」

と言った。


「別にくだらない話。」


好きな人には冷たくしちゃうとかなんとかの見本である涼太は今日も塩対応。


だけど


「てか、俺も凜華の作った朝食食べたーい」


そう言ってニカッと笑う涼太をやっぱり嫌いになれない。


そして笑い合う二人が同じくらい好きなんだ。