「ハル、着いたよ」
集合場所の新幹線乗り場、改札横の広場には、既にうちの学校の生徒があふれていた。
と言っても、宿泊場所の都合で学年を半分に分けてあり、後発組は明日が出発。
「……ん」
オレに手を引かれて、ぼんやり焦点の合わない目のまま、ハルは小さく答えた。
分かっているんだか、分かっていないんだか?
荷物は2人分まとめて反対の手で引く。ハルの荷物がスーツケースで、オレのはその上に乗ったでかい旅行鞄。
ハルの手持ちのリュックは、地元から同行している看護師の松村里実さんが持ってくれていた。里実さんの引く大きなスーツケースには医療品が色々入っているらしい。
オレたちに気がついた斎藤が駆け寄る。
「おはよ。牧村、どうした? 大丈夫?」
ぼんやりと表情のないハルを見て、斎藤が驚いた声を上げた。
それを受けて、一瞬、斎藤の方を見たハルは、小声で
「……おはよう」
と応えた。けど、すぐにぼんやりとした遠い目になってしまった。
「車に乗る前に酔い止め飲んだんだけど、……効きすぎて眠い感じ? ごめん。多分、今、8割以上夢の中だと思う」
オレが言うと、斎藤はホッと息を吐いた。
「いや、眠いだけなら良かった。一瞬、ここで引き返しかと焦ったよ」
その数分後に合流した志穂にも同じような心配をされ、先生の注意事項やら何やらもろくに耳に入らないまま、ハルはオレに手を引かれ支えられて新幹線へ乗車。
座席に座らせると、オレが荷物を棚に上げている間に、ハルは完全に寝入ってしまった。