「わたしも叶太くんもついてるし、大丈夫。それに、看護師さんも来てくれるんだよね? えーっと、何とか里実さんだっけね?」

「うん。松村里実さん」

「どんな人?」

「えっと……旦那さまが心臓病で、看護師さんってだけじゃなく、色々と詳しいみたい」

「わ、じゃあ本当に安心だね」

「うん」



穏やかに、ハルはほほ笑んだ。
けど、心が晴れ渡っている訳じゃないことに気づいたのは、オレだけじゃなかった。



「牧村、そう心配すんな。広瀬だけじゃなく、オレだっているし」



そう言ったのは斎藤。

志穂と斎藤とオレたち4人が同じ班。したがって、一番迷惑をかけるのも、世話になるのもコイツらだ。
けど、どっちも迷惑だなんて思わないのは間違いない。



「そうそう。ハルちゃんが乗り物苦手なのも、長く歩けないのも、みんな分かってるから」



長い付き合いじゃん、と斎藤の横から顔を出したのは、初等部から杜蔵に通う幸田和樹(こうだかずき)。

しょっちゅう冗談やらくだらない駄洒落を言ってクラスを沸かせるムードメーカー。明るくて気の良いヤツで、オレとも仲が良い。

ハルは男女問わず、多くの人から好かれているけど、それでも少数派ながら、ハルを身体が弱い面倒な子だと避ける輩もいる。
幸いこのクラスには、そう言うヤツはいなくて、何かにつけてお互いをフォローしようという雰囲気がある。



「あんま気にしないで、気楽に行こう。……ほら。笑う門には福来たる。笑った笑ったっ」



と和樹はあろうことか、スッと手を伸ばしてハルのほっぺたを左右に引っ張った。