「沙代さん、果物ちょうだい」
さすがハルが生まれる前からハルの家に住み込みで働いてる沙代さん。すぐにオレの意図を理解してくれた。
「お嬢さまにですか?」
「うん。肉食べる気分じゃないみたい」
「ちょっと待ってくださいね」
事前に用意していたらしく、沙代さんは大きなクーラーバッグの中から、涼しげなガラスの小鉢を取り出した。
「はい、どうぞ」
メロン、リンゴ、グレープフルーツ、キウイ、バナナ、イチゴ……細かく刻んだ色とりどりのフルーツで作ったゼリー。
フルーツのゼリーはハルの好物だ。
いつもは季節の果物で作ったものが多いけど、誕生日だからか今日はやけにたくさんの種類が入れられていた。
「ありがとう!」
「他にも、普通の果物やフルーツポンチもあるので、そちらが良ければおっしゃってくださいね」
「うん。了解!」
小鉢片手にハルのところに戻ると、ハルは目の前に置かれた肉ではなく、焼きカボチャを食べていた。
「ハル、ゼリーもらってきた」
「あ……ありがとう」
「ムリに肉食べなくて良いよ。ハルが草食なのは、みんな知ってるし」
とオレは、席について早々、ハルの肉に手を伸ばす。
これはオレが片付ければ良い。
うん。うまい。
向かいの明兄は、小さく肩をすくめた。
「陽菜、悪かったな。聞かずに取って。気にしなくて良いから。
叶太の言う通りだ。陽菜が肉が得意じゃないのは、みんな知ってる」
明兄はしまったなぁという顔。
何しろ、ハルの答えを待たずに肉を取り分けたのは、ただ単にオレへの嫌がらせだったんだから。
けど、さすがにそうは言えないだろ、明兄。



