薄っすらと目を開けてほほ笑みながら、ハルは



「ただいま」



と返してくれた。



ここは、オレが子どもの頃から何度も遊びに来ているハルの部屋だけど、

今ではオレたち2人の寝室となった。

見慣れたハルのベッドやハルの勉強机や本棚は、もうない。



午後の日差しがレースのカーテン越しに部屋に差し込み、まだ真新しいオレたち2人分のベッドやデスク、本棚を照らした。

ハルのお気に入りのロッキングチェアだけが、昔と変わらず窓際に置かれていた。



オレは寝息を立て始めたハルをベッドに寝かし、そっと布団を掛けた。



「ハル、愛してるよ」



ささやき、ハルの額にキスを落とす。

眠るハルの髪を梳き、手を握り、そっと頬に触れる。

ハルの穏やかな寝息に耳を傾けながら、ようやく戻ってきたハルとの日常を噛みしめる。



まだまだハルは本調子ではない。

少なくとも一ヶ月は自宅療養をするように言われているし、一緒に学校に行ける日が来るのは、まだ当分先だろう。



だけど、朝目が覚めたらハルが隣にいて、夜寝る時にもハルが隣にいる。

夜中に誰かが見回りに来る事もなければ、深夜、他の病室から漏れ聞こえるざわめきに息をのむ事もない。

同じ部屋で、何に煩わされる事なく2人きりでいられると言うのが、どれほど幸せな事か……。



きっと、ハルはもっと元気になる。



開胸・開心手術の傷が癒えれば、以前よりは状態の良い心臓がハルを元気にしてくれる。



きっと……。



「ハル、愛してる」



オレは何度でも、ハルへの愛を口にする。

ハルへの愛しさが、尽きることなくあふれ出てくる。



「ずっと……一緒にいようね」



オレは、ハルとの幸せな未来を思い浮かべながら、永遠を誓った教会を思い浮かべながら、ハルの頬にそっとキスをした。


(完)