病院のバックヤードに入り、院長室へ続く廊下を歩く。
小さい頃は、ハルとよく遊びに来て、おやつをもらったりジュースを飲ませてもらったりした。
懐かしいと思いながら、ドアをノックする。
「叶太です」
「どうぞ」
ドアを開けると、久々の院長室。
大きな執務机から、じいちゃんが立ち上がるところだった。
「カナくん、悪いね、呼びつけて」
「いえ、大丈夫です」
「なんで急に敬語?」
「え? ハルの婿だし?」
「堅苦しいのはやめよう。陽菜の婿以前に、君はもう孫同然だ」
「え? ありがとう、じいちゃん」
いつもの軽い口調で返すと、じいちゃんは
「そうそう、それが良いんだ」
と楽しげに笑った。
「何か飲むかい?」
「何がある?」
「コーヒーならサーバーがあるし、冷たいのも色々あるよ。そこの冷蔵庫を開けてごらん」
昔もよく、冷蔵庫から飲み物をもらった。
調度のほとんどに変わりはなかったけど、冷蔵庫は最新のものに入れ替わっていた。
最後にこの部屋に来てから何年経った?
何となく中学に入った辺りから、来なくなった気がする。
「……じいちゃんも飲むんだ、栄養ドリンク」
冷蔵庫の中に見慣れた銘柄を見つけて、お義母さんみたいだと思ったら、
「それは響子さんのストック」
とのこと。
あっちにもこっちにも……と思わず笑いながら、無糖コーヒーを取りソファに座る。
「君くらいの年の男の子にしては珍しいくらい、カナくんはヘルシー嗜好だよね」