「カナ、ごめん。……できないよ」

「ハル?」

「考えられない」

「ハル、あの……急なことで驚かせたとは思う。けど、」



もう言わないで。

聞きたくないよ、カナ。

驚いたとか、そういうことじゃない。

結婚できる理由なんて、どこにもないんだよ?



わたしは、カナが贈ってくれた指輪の入った紙袋を手に取り、カナの胸に押しつけた。



「えっと、ハル……」



鼻がツーンとして、じんわりと涙が浮かんでくる。

必死で堪えているのに、こぼれ落ちそうになる。



もう、聞きたくない。

なにも聞きたくない。



カナがわたしの肩に手を触れた。



「ハル、『今は』考えられない……って思っておくね」



顔を上げると、カナの悲しそうな顔が見えた。

そんな姿を見ると、申し訳なくて仕方なくなる。



「ごめん。オレ、先走ったかも知れない。けどね、本気だよ。

オレは、ハルしか考えられないし、朝も昼も夜も、いつだってハルと一緒にいたいと切望してる。

堂々とハルのパートナーを名乗りたい」



カナはわたしの頰に、そっと手を触れた。



「愛してる。大好きだよ、ハル」



カナは優しくほほ笑んだ。



いつもの天真爛漫な笑顔じゃなくて、それはムリに作った笑顔で、

わたしの胸をえぐる。



「……わたしも」



わたしも、愛してる。



その想いは言葉にならず、代わりにこらえきれず、我慢していた涙があふれ出した。