「リオウとヒトヤ……そうですねー
グリムズのコードネームの要である一文字で表すのなら……

リオウは扇、ヒトヤはそのそのまま獄 ですかね。」

~・~・~・~

「……ん~」

朧月のこの言葉を最後に扇は目が覚めた。
時計を見ると針は5時を指していた。

「……なんか、すごい長い夢を見た気がする…」

扇はあくびをしながらベッドから降りて長袖のシャツと長ズボンをはく。

とても、身軽な服装だが、今は11月。
気温も下がってきているため、これでは寒く感じる。

「……リオウ・アーリア……懐かしい名前…リオナ、リアナ、女王は元気かなー」

扇は、暁の日差しが入ってくる窓を眺めながら呟く。

扇と獄がグリムズに行って3年後にエイミは国の女王となった。

アルテーナ諸国は先代女王よりも豊かに平和な国になったと噂で聞いた扇は飛びはねそうになった。

そして、リオナとリアナはアーリア家最強の魔法師となった。

今では、異例の2人という体制で立派に当主をしているらしい。

鬼才少女であるリオウ…この名は薄れていき今では知るものは少なく、噂も嘘であったのではないかと言われている。

「……さてと、行くか」

扇は夕凪を起こさないように部屋を出る。
行き先は 月島 風座間 所有の森林。

「やっぱり森はいい~!」

扇は子供のような声で伸びをする。
昔から森にこもって契約武器たちと会話をするのが日常。

「さーてと、雷神!水雫!」

誰もいないことを確認して2人を呼ぶ。

『……どうした?こんなところに呼び出して』
『こんにちは、扇ちゃん』

現れたのは具現化した雷神と全水の水雫。

青色の瞳に同じ青色のストレートのロングヘアで、藍色のカチューシャをつけている。

青色のタンクトップ風ワンピースの上に白色の袖無しの羽織を着ており、

それを藍色の帯でまとめ、帯は後ろでリボンになっている。

羽織には青色の雫の紋章が描かれている。

「いやー、久しぶりに戦闘したらなまっちゃってるかなー……って?」

扇は、頭に手をあてて苦笑する。

才華龍学院に転校する少し前まで激しい戦闘という戦闘はしていない。

そのためか、鈍っていると思っていた扇。

『なるほど、ダーインスレイヴが現れて、慌てて逃げたのはそういうことか』

雷神はすぐさま理解した。
扇の本性はアーミャと共にダーインスレイヴを止めたかった。

アーミャも戦闘から離れていたため、鈍っていたもののダーインスレイヴに対抗できるだけの力はあった。

だが、扇は違った。
その力がなかった。全水の水雫を使ったときに一気に魔力が無くなった感覚に襲われた。

その状態でダーインスレイヴ相手に歯が立たない。

それどころか、逆に足を引っ張るだけだ。

『このことは、弟子達に言わなくてもいいの?』

全水の水雫の問いに頷く扇。
雷神も全水の水雫も黙ってしまう。

沈黙が訪れたがそれはすぐに破られた。

「あの子達には言えない。
迷惑にはなりたくないからね……まぁ、ひーくんには言ったけど……」

扇は苦笑いで答える。

それに、まぁまぁ とクスッと笑う全水の水雫に、扇は顔を赤くする。

「だから、ちょっと朝練!少しは感覚になれないと~」

扇は元気よく昔のように笑う。
久しぶりにその無邪気な笑顔を見た雷神は ああ と頷く。

その顔はどこか懐かしい表情をしていた。