「ひーくんが、呪いのアザはわずかだけどまだ進んでいるみたい」

扇は堺人の首筋を指差しながら言う。
堺人と燐は驚き、堺人は首筋に手をあてた。

燐は、不安の感情が混じった表情をしており、自分のせいだ と下を向いた。

「24時間に1㎝程度だから、大丈夫だよ。
薬にそれを抑える薬を作ってもらったから死ぬことはないよ」

扇は燐の背中をポンポンと叩く。
燐を励ましているのだろう、声はいつもより優しかった。

「分かりました。ありがとうございます」

堺人はひとまず安心し、礼を言う。
それに、扇は頷いて椅子から立ち上がった。

「伝言はこれだけ。それじゃあ、おやすみ~」

扇は手を降りながら部屋を出ていった。

「薬の薬(くすり)ってそんなに効くの?」

堺人は薬が調合する薬が気になっていた。

同い年の少年が薬を調合するのは珍しくはないが、身近にそういった人がいないため、とても気になるのだ。

「そりゃね、グリムズ1の薬師だよ。
下手すると、この世で…かな?」

燐の言葉で、堺人は驚く。

この世には自分より、すごい者がたくさんいることを改めて感じた。

~・~・~・~

「伝えてきたよ~」

燐と堺人がいる部屋を出て、扇と夕凪が借りている部屋についた扇は通信機を右耳につける。

通信相手はもちろん獄だ。

『おう、ありがとな扇。』

獄の低めの声が通信機から聞こえる。
扇はその声に安心感をいだく。

『ところで、殺は大丈夫なのか?』

獄はさらに声を低くして言う。
こちらは、不安でいっぱいだ。

「うん。堺人くんが殺に語りかけてくれたからね。正気に戻ったから。

……でも、堺人くんはすごいよ。今まで声をかけても反応なんか一切しなかったのにね。」

扇はクスクスと笑う。
それは、獄も同じだった。

どうやら、扇も獄も考えていることは同じだったらしい。

『このまま、何もなかったらいいがなぁ』

獄は、また不安な声音に変わる。

殺…というより、グリムズの子供であれば 

     何もおこらない=奇跡

のようなものであり、運がないようなものだ。

何かが何処かでおこって当然……それが扇達の常識だ。

「まぁ、それは100%ないだろうね~。
 私達はグリムズの者……それに異能の集まりだし」

扇はどこか遠い視線で言葉を紡ぐ。

『それがグリムズだ。お前も分かってるだろう?
ましてや、異能なんて扇そのものじゃないか』

獄は呆れた声で言う。
扇は うぅ と何も返せず、ため息をつく獄の姿が浮かぶ。