「あれっ、楓。もう上がったの?」

楓は服を着て、のれんをくぐると目の前に薬がいた。

「薬も早いと思いますが……」

楓は首をかしげる。
薬は そうだね と言った。

何を言えばいいのか分からず、シーン としている。

「まだ嫌なの?」

薬は、楓のバイザーをゆっくり取る。
楓は力なく コクリ と頷く。

「そっか……まぁそうだよね。
僕は元から孤児だから何も言えないけど……大丈夫だよ。僕がついてるから。

それに、仲間は陽や陰、それに殺と蝶もいる。」
「はい!」

薬は妹を慰めるように楓の頭をポンポンする。
楓は薬にこうしてもらうのが大好きだ。

楓と薬はともに孤児であり、世界で捨てられた所をグリムズの者が拾ったのだ。

楓は光国、薬はフィルウェン王国で生まれ、1歳になる前に捨てられた哀れな子供。

その国への恨みを持つ孤児もいるが、自分たちは拾われたからまだましだと考える者がほとんど。
復讐を企てる者はもちろんいない。

「あ~、いい風呂だった~」

陽が満足感丸出しの表情でのれんをくぐってきた。

その後ろには柳やカインもいたため、薬はすぐに楓にバイザーをつける。

「フゥ…」

丁度、女子もあがってきたようで、陰はスッキリした表情をしている。

「あっお楽しみ中だった~?」

楓と薬を見つけたアーミャはニヤニヤしながらふざける。

「そうだよ、こんなに早く終わってザンネン」

薬も、軽い言葉で返す。
薬の性格を知るアーミャ達は本当か冗談か分からない。

「えー、もうあがったの?」

その時、丁度扇が入浴場に到着した。
そこで皆気がついた。

「あれ……凪姐さんは?」

そう、夕凪の姿が無いのだ。
その事に全く気づかなかったカイン達。

「ああ、凪なら燐と堺人を見てるよ。」

いつの間に……これが全員の心の声であった。

「それじゃあ、風座真様の所にいくよ。
自己紹介もかねてね!」

扇が歩き出すと、それにいち早くついていくのが陰達グリムズの子供であった。