「男に可愛いなんて言わないでください。少しも嬉しくありません」

怒っているくせにプイッとそっぽを向くその仕草も可愛いんだけど。

「だってロイ君が可愛いんだもん」

なんだか弟みたいな感じでさ。こう、ロイ君の頭をわしゃわしゃーっと撫でたくなる。

「ふざけないでください」

ロイ君は溜め息を吐きながらそう言った。

「ふざけてないよ! 真剣に可愛いって思ったよ! 弟みたいな感じで!」

「なおさら不愉快です」

「ええーそんなあ! 本当にそう思ったのに!」

「それなら余計に性質が悪いですね」

「だって、ロイ君が…」

ロイ君が可愛いんだもん、と言おうとしたその時だった。


「助けて!」


バン、とドアが開くと共に、叫び声が聞こえた。

慌ててドアの方を見ると、幼い女の子が今にも泣きだしそうな顔をして立っていた。


「ど、どうしたの?」


駆け寄ると、女の子の隣にうずくまっている男の子を見つけた。


「どうしたの?! 大丈夫!?」


その子はうめき声にも似た、苦しそうな声を漏らしている。


「お願い、助けて! お兄ちゃんを、助けて!」


女の子の目には涙が浮かんでいる。


「助けるよ」


穏やかで落ち着いたその声は、ロイ君だった。

優しい笑顔で女の子に微笑んだ。


そして冷静な顔に戻ると、男の子に声をかけようと男の子の肩に手をかけた。

そのとき、首筋に紺色の盛り上がった傷跡があるのを見つけた。


「これは、まさか…!」


ロイ君は呟くと目を見開いた。


「リア先輩!」


わたしの方に振り返りながら叫んだ。

その声は、普段のロイ君とはあまりにもかけ離れていて迫力があった。


「はっ、はい!」

「ターシャさん呼んできてください!」

「えっ?!」

「急いで!」


ロイ君は苦しそうに男の子を見つめながらそう言った。

わたしにはよく分からないけれど、急がなければならないことは分かった。

「今、呼んでくるから!」

薬局の奥へと駆け出そうとした、その時だった。


「走らなくていいよ、リアちゃん。ロイ君も、もう大丈夫だから」


凛とした声に二人同時に振り返る。


「ターシャさん!」


仮眠中だったはずのターシャさんが、店の奥から現れた。

歓喜のあまり思わず声をあげる。


「寝ていたんじゃなかったんですか?」


ロイ君の質問に、ターシャさんは前髪をかきあげながら「寝ていたさ」と言った。

そして白衣のポケットに両手を突っ込んで、大きなあくびをした。


「けど、可愛い可愛いバイトちゃん達が何か困っていたなら、ちゃんと対処するのが局長ってもんだろ?」


そして片膝をついて男の子に視線を向けると目を細めた。


「にーちゃんは必ず助けるからな」


そばで涙を浮かべながら立ち尽くしていた女の子に笑いかけ、その頭を撫でた。

女の子は涙を流しながら何度も頷いた。