「仕方ないだろ、日が昇る直前じゃないと採取できない薬草やら材料たちを採取しに行ってたんだから。おまけに、帰って来てからは休まずに魔法薬を調合していたんだ、ちっとくらい休ませてくれたっていいじゃないか」

ターシャさんはあくびを噛み締めたような、しまらない口調でそう言った。

こんなにがさつに振る舞うなんて、せっかく美人なのに勿体ない。どおりで彼氏がいるだとか浮いた話を聞かないはずだ、とわたしは溜め息を吐いた。


「ところでリアちゃん、私が出掛けた場所が一体どこだか知っているかい?」

「いや、知らないですけど」

「リヴェドだ。リ・ヴェ・ド」

その答えにわたしは目を見開いた。

「リヴェドって…"あの"リヴェドですか?」

そうそう、とターシャさんは頷いた。


リヴェドは、ここからずっと遠い北の国境にある秘境の町。

大自然が広がっていて、沢山の種類の薬草も生えている。

そして、恐ろしい魔物も住んでいる。


「よくリヴェドになんて行こうと思いましたね…というかご無事で何よりです…」

わたしは絶対に行こうなんて思わない。

わたしが怯えた顔でそういうと、ターシャさんは吹き出して笑った。


「あっはっは! リアちゃんは相変わらず反応が面白いなあ!」


ターシャさんは大口を開けて笑った。

けれど次の瞬間フッと真面目な顔になった。


「私は魔法薬師だ。調合に必要な薬草があれば、たとえリヴェドだろうと、どこでも行くさ。魔法薬を調合する、そのために魔法薬師は生きているんだから」


そこまで言うとターシャさんは「あっはっは!」とまたその上品な顔立ちに似合わない、豪快な笑い方で笑った。

ターシャさんの笑いのスイッチは謎だ。どのタイミングで笑いだすのか、いつも分からない。

けれどわたしは周りの人までも楽しい気持ちにさせる、ターシャさんのこの笑顔が大好きだ。


「ターシャさんはリヴェドで何を採取してきたんですか?」


箒を抱えたまま、ロイ君が尋ねる。

あいさつ以外のことをロイ君から言うなんて珍しい。