「ありがとう」

幼い兄妹は笑顔で手を振り、薬局を後にした。

その姿が見えなくなるまで見送ると、ターシャさんに話しかけた。

「良かったですね、あの子の呪いが解けて」

ターシャさんは目を細めて微笑んだ。


わたし達が戻った後、ターシャさんは急いで抗呪魔法薬を生成、処方した。

尻尾の毛を少し切り取ったトニアースはというと、まだ檻の中で元気にエサを食べている。


ターシャさんはわたし達を呼ぶと、ワシャワシャと乱暴に頭を撫でた。

「2人とも、ありがとう」

それは今まで見た笑顔の中でいちばんやさしかった。

わたしは胸にこみあがる想いを感じていた。


帰り際、わたしはロイ君を呼び止めた。

「なんですか?」

「あの、今日はありがとう!」

緊張しながら感謝の思いを伝えると、ロイ君は少し目を見開いた。

「…それは反則ですよ」

ロイ君は溜息を吐いた。

訳が分からず理由を尋ねると、もういいですと言われてしまった。

「じゃ、お疲れ様でした」

ロイ君は箒で飛び上がるとそのまま家に帰っていった。

だから、わたしには聞こえなかったんだ。

箒で空を飛びながら呟いたロイ君の言葉を。


「いつか、先輩のこと、振り向かせますから」



fin.