それはそうだろうけど……。
「ここは、仕事から逃れたくなったときに逃げ込む部屋。一日に一度は来てるかも」
そう言って岬碧衣が笑う。
副社長の特権なのか、ホテルの一室をいつでも自由に使えるということだ。
「ですけど……」
だからと言って、ワインをこぼしたのは他でもなく私。
彼がぶつかってきたわけでも、わざと私に掛けたわけでもない。
彼の不手際は一切ないのに。
「どうして僕がっていう顔だね」
コクンと頷く。
「あ、その前に、まだ名乗ってなかったっけ」
岬碧衣が胸元から名刺を取り出して私に差し出す。
「一応、このホテルの副社長。それで、この部屋を自由に使えるってわけ」



