「はい、お待ち!」
マスターが向かいから腕を伸ばした。
その手には、この店自慢のふわとろオムライス。
「そろそろお腹が空くころかと思ってさ」
「ありがとう」
デミグラスソースのいい香りが沸き立つ。
「マスターにしては気が利くじゃない」
「随分な言い方じゃないか、夕菜」
「あら、思ったままを言ったまでよ」
「ったく、これだから嫁のもらい手もつかないんだよ」
「大きなお世話。それを言うならマスターでしょ? 私はまだまだ30歳なんだから」
始まったのは、マスターと夕菜のいつもの言い合いだ。
店内に響くほどの声だけれど、夫婦漫才のようなノリだから、お客さんも誰一人として気に掛ける人はいない。
この二人こそお似合いだと思うけれど、それを言うと夕菜からパンチでも飛んできそうだからよしておこう。
そして、二人を尻目に、大好物のふわとろオムライスにスプーンを入れたのだった。



