あるとき若衆は、念者がとある小姓といるのを見かけました。
 そこはある寺の裏手でございました。

 少し先には庫裏がございます。
 小姓はしきりに念者を誘っているようでございました。

 若衆の頭に血が上ります。
 喚きながら駆け寄ると、小姓は驚いて去って行きました。

 念者はいつもの無表情で、言い繕うでもなく咎めるでもなく、黙っております。
 小姓といたときから、念者は一歩も動いておりませぬ。
 おそらく今と同様、表情も動いていなかったことでしょう。

 若衆は小さくなる小姓の後ろ姿を見ながら悲しくなりました。

 あの者は、小姓になりたてでありましょう。
 十二、三歳。
 己と同じように抜けるような雪の肌に華奢な身体。

 ですが若衆とは決定的に違うことを目の当たりにしたのでございます。

 小姓はまだ少年の初々しい身体をしておりました。
 まさにこれから咲き誇る蕾なのでございます。

 若衆はすでに少年から青年に移る時期。
 今が絶頂ということは、あとは朽ちて行くだけの花---。

 ぞくりと、若衆の白い肌が粟立ちました。
 同時に念者が腰に帯びている刀に目が行きます。

 いつか、閨でねだって見せて貰った刀。
 妖しいまでの輝きが脳裏に蘇り、知らず若衆の身体を恍惚に導きます。

 若衆は心の内を念者に伝えました。
 念者は初めて、僅かに驚いた顔をしましたが、若衆にとってはそれだけで十分でございました。
 念者の無表情を突き崩すほどの衝撃を与えられたのでございますから。