その昔、それはそれは美しい若衆がおりました。
 透明な肌と葡萄の瞳を持つ、女と見紛うほどの華奢なその美少年は齢十六。

 衆道の盛んな折り、このような若衆が目立たぬはずはございませぬ。
 皆何とかこの者と契りを交わしたいと躍起になり、若衆としての花の盛りの時期でございました。

 が、どの者の言葉にも、若衆はつれない態度で接していたのでございます。
 と言いますのも、そんな若衆にも、心に決めた念者がいたからで。

 念者と言いますのは、若衆と男色の契りを交わした年長の者で、兄貴分ということになりまして、この念者と若衆という男色の関係と言いますのは、何より強いものでありました。
 念者は契りを交わした若衆以外と関係を持つのはもちろんいけませんし、若衆も他の者と浮気をしようものなら、斬り捨てられても文句は言えませぬ。

 さてこの美しい若衆の念者というのもまた、涼やかな青年でありました。
 漆黒の髪と同じ色の瞳は物憂げに伏せがちで、整った造形に影を落としております。
 あまり表情は動くほうではありませぬが、それがまた、得も言われぬ色気となっているようでございました。

 念者がありながらも若衆を取り巻く年長者が後を絶たないのは、いまいち念者の態度がはっきりしなかったせいもあるのでしょう。
 若衆と会っていても、念者の表情が動くことはありませぬ。

 他の年長者のほうが、よほど若衆と話すことを楽しんでいるようなのでございます。
 それが若衆は若干不満ではあったのでございますが、最近では不満が不安になってきたのでございます。