院生を経て僕はそのまま大学へ残った。引き続き長谷村教授につき、助手、講師と経て今は准教授となった。


長谷村教授は相変わらず完璧なまでに出来る人で学びたい所はたくさんある。けれど僕は随分前よりオセロで長谷村教授にわざと負ける事を止めた。


初めて勝った時の長谷村教授の嬉しそうな顔が未だ忘れられない。


その時だったと思う。


助手として大学に残らないかと声を掛けてもらったのは。


それから花野井教授。


言語も分からないような僻地を転々としたのち復職したものの、近頃ではその個性的な経歴とキャラに世間が注目をし、テレビコメンテーターとして活躍している。


その花野井教授が復職した際、僕が師事したところあっさり断られた。


ーーー昔、恋仲であった女の息子に我が身を削って教えるほど私は人間が出来ていない


教授は最初で最後だと前置きした上で母さんとの事を話してくれた。


(そっか…だから母さんはガーベラが好きなんだ。)


教授の話を聞きながらそんな事を考えていると


ーーーしかしながら、それだけではあまりにも大人気ないので友人としてなら君と付き合ってやろう。


と言う何とも花野井教授らしい言葉を貰えた。


実際、今では僕と花野井教授は時々、食事に行っては複雑な人間学について熱く議論するような仲だ。