小さな、けれど優れた技術を持つ町工場に就職を決めていた俺は嘗て、宇宙飛行士になりたいと言う子供の頃の夢をその会社で繋ごうと思った。


その町工場はロケットに必要な部品作りに深く携わっていたからだ。


運良くその会社の社長に気に入られた俺は早々に内定を貰い、卒業までの最後の学生生活を何をするでも無く呑気に過ごしていた。


ある時、内定先の社長に九州の方で行われるロケットの打ち上げを見に行かないか?と誘われた俺は二つ返事で現地に向かった。


間近で見るロケットの姿に子供の頃の夢がリアルに蘇る。


結局、打ち上げ直前に不具合が見つかり、その瞬間を見る事が出来なかったのだけれど。


次の日、仕事がある社長と別れた俺は社長が手配してくれていた飛行機の時間までまだ余裕があったのである所へと向かった。


ある所とは、かつて思いを寄せ合っていたあの人から貰った手紙に押されていた消印の町へーーー俺は向かった。 


九州行きが決まった日から俺はあの人の今の姿を見てみたいと思った。


ただ単にそれだけだ。


それは俺がまだ高校生の頃の様なガキまる出しの相手を無視した勢いだけの思いじゃなくて。


ただ、理不尽に終わりを迎え別れたあの人の元気な姿をひと目、この目で確認出来ればそれで良いと思っていた。


恋愛感情とか未練とかそういう気持ちからではない。


純粋に夢を諦めずあの人が掴んだ幸せがそこにあるなら、それを見てみたかった。


ーーー夢を諦めないで


あの人から貰った手紙の言葉に再び俺が夢を諦めず進み出したことが間違いじゃなかったと言う実感をあの人を通して感じて見たかった。


夢のためだと大企業の内定を蹴って小さな工場を持つ会社に就職を決めたことに何処か迷いがあったのかもしれない。


俺がやろうとしている事は正しいのか?


ガラにもなくこの期に及んでそんな事を考えていたんだ俺は。