部屋の前に来ると


「どっちがいい?」


兄貴が自分の部屋と僕の部屋に順に目線を送る。


「じゃあ、こっちで。」


何となく兄貴の部屋に入るのが躊躇われて、自分の部屋を指差した。


「ん。」


兄貴はそう言うと自室のドアノブから手を離しこちらへと来た。


ゆっくりと部屋の扉を開けると、さっき母さんが言ってたように綺麗にベッドメイクされてあり、部屋も片付いていた。


まるでずっとここに住んでいるかのように。


ただ、本だとか最小限の必要なものは持って出ていったので以前よりもガランとしている。


兄貴が僕のデスクの椅子に後ろ向きに跨がるように腰を下ろしたので僕は綺麗にベッドメイクされた所へ遠慮がちに座った。


「お前さ、今でもこれやってんの?」


兄貴がデスク脇に置いてあったオセロのゲーム盤を指して聞いてくる。


実は兄貴もその昔、ハマっていて二人でよく対戦した。


けれど双子ゆえの事なのか、考える事がお互いに似通っていていつだって勝敗は、引き分けにしかならなかった。


「えっ、うん、まぁ。長谷村教授覚えてる?ああ、兄貴が居た頃は准教授か。」


「ああ、花野井教授についてた人だろ?あの人、えらい出世したもんだな。」


「うん、まあね。花野井教授がかなり推薦したからね。で、その人がオセロ好きで時々、教授の部屋に呼び出されては相手してるよ。」


「ふうん、で?」


「で?」


「お前の事だから、きっと、わざと負けてるんだろ?」


「えっ……ああ…まぁ。」


兄貴の言う通りだった。


僕はオセロでは負け知らずだ。


ただ一人兄貴とは引き分けるくらいでオンライン通信で対戦しても一度も負けた事がない。


長谷村教授もかなり強いけれど、頭の中で駒を読み進めると必ず僕に勝敗が上がる。


なので僕は敢えて教授が勝ちやすいように駒を進めていく。


何となく教授に勝つのが申し訳ない気持ちと後は早めに切り上げてその場から去りたいからだ。


だから気づかれないように、そっと。