駅前の本屋までくると僕は新刊コーナー辺りを適当に物色したりして時間を潰した。


ナルは学校帰りにこの本屋によく来ている。


その事を知っていた僕はナルと付き合う前、この本屋でナルをこっそり待ち伏せていた。


全くの偶然を装って


あの頃はその瞬間だけでもナルが僕の事を見てくれれば、それで良かった。


それだけで幸せだった。


ナルがいつか僕の為だけに笑顔を向けてくれたならーーー


毎日見ている景色がどんな風に変わるだろうか。


そんな事ばかりを考えていたあの頃。


けれど、


今、ナルは僕の側にいていつだって僕に笑顔を向けてくれる。


僕が手を伸ばせばすぐ触れる事が出来る距離にナルはいる。


なのにーーー


なのに、


前よりもナルとの間に距離を感じてしまうのは何故だろうか。


僕はその答えに気付かないフリをする。


ずっと、このまま時が過ぎていけば良いのにと。  


ナルさえ居てくれればそれで良いのにと。











「七夢(ななむ)?」











久しぶりに聞く声に振り向くと兄貴がそこに居た。