「ありがとう、わざわざ送ってくれて」

歩けるから大丈夫という私の主張を退けて、結城くんは家まで送ってくれた。

辺りはすっかり暗くなっていた。

「うん。おでこの傷は忘れずにちゃんと消毒すること。足もしばらくは無理しないで」

結城くんはいつもの調子を取り戻したようで、私は心底ほっとした。
いつもと違う顔を見せられると、心がざわざわして落ち着かない。

「はいはい、ちゃんとします。 結城くん、過保護な母親みたいよ」

「せめてお父さんって言ってよ」

「あはは。 じゃあ気をつけてね。
おやすみなさい」

「ん、おやすみ」

結城くんはその言葉と同時に、ものすごく自然な仕草で私の包帯を巻いたおでこに唇を近づけた。

ん? 今の何?

「ち、ちょっと! 何してるのよ!!」

私は驚きのあまり大きく後ずさって、壁に頭をぶつけーーそうになったところを結城くんに支えられた。
結城くんの腕が私の肩にまわり、大きな手に頭を抱かれる。

ふわっと全身が結城くんの香りに包まれる。


「あぶねっ。 これ以上頭ぶつけたらバカになるよ」

「・・・・」

「桃子センセイ、顔真っ赤」

結城くんはニヤリと意地悪な顔で笑う。

「だ、だって急に変なことするから」

「リハビリをちょっとステップアップしてみた」

「ステップアップって・・いらないよ、そんなの」

「そうかな? 気付いてない?
桃子センセイ、最近俺が触っても青くなんないよ。
その真っ赤な顔は『気持ち悪い』じゃなくて『恥ずかしい』って意味だと解釈してたんだけど・・・違った?」