寮の部屋は6畳程度の狭い個室だ。
フローリングの床にシングルベッドと学習机。

俺は机の上にカバンを放り投げると、クローゼットを開け制服から部屋着にしているジャージに着替えた。

ベッドに転がって漫画を読んでると、ふと今日の桃子センセイの真っ赤な顔を思い出した。

「ふっ」

思わず、笑い声が漏れる。

色気はないけど、小動物みたいで可愛いよな・・・。

仕事熱心で一生懸命だし。


プルル、プルル、プルル・・・

枕元に置いてある携帯がなり、思考が中断される。
無意識に桃子センセイの事を考えていた自分に少し驚いて、誤魔化すように慌てて携帯の通話ボタンを押した。


「もしもし?」

「あー、やっと繋がった! 何で電話出ないのよ?」

しまった、出なきゃよかった。
携帯からは聞き慣れた女の声。
女にしては低めの落ち着いた声色だが、明らかに苛つきを滲ませていた。

「俺も忙しいんだよ。
つーか、もう電話とかしてくんな」

「どうしてそんな冷たい事言うかな〜。大体広人はね・・・」

携帯から流れ出る喚き声を無視して、漫画に意識を戻す。

「ってことで、文化祭には顔出すからさ。今年も頑張ってよ」

「はぁ?? 来なくていいから。
いい加減、ほっとけよ」

「なぁに?その子供みたいな態度。今さら思春期なの?
まぁ、いいけど。 じゃあまたねー」

「おいっ、千花っ」

ツー、ツー、ツー、 通話終了音が虚しく響く。

「ちょっとは人の話聞けよ」

俺はシャットダウンされた携帯相手に愚痴をこぼした。