密室の恋人

「わかった、するよ」

 そんな社長を威圧的に蒼汰が見返す。

 いや、あの、私の意志は?
と手を握られたまま、蒼汰を横目に窺っていると、社長が、

「えーと、君、何処の子だっけ?」
と訊いてきた。

「総務の雨宮凛子です」

「雨宮くん。
 ああそう。

 ……まあ、頑張って」
とまるで同情しているかのように、ポン、と肩を叩いて行ってしまう。

 しゃ、社長っ。

 見捨てないでくださいっ、とその蒼汰とは似ても似つかない小柄な背中にしがみつきそうになったが、横に居る蒼汰はその後ろ姿を見ながら、

「吠え面かくなよっ」
と更に喧嘩を売っていた。

「いや、あの、身内の争いに私を巻き込まないでください」
と力なく言うと、

「あのオッサン、子供の頃から容赦なくてな。

 相撲をやれば、子供の俺を手加減なく投げ飛ばすし、釣りをやればーー」
と語り出したので、

「わかったっ。
 わかりましたから、とりあえず、手を離してくれませんかっ」
と手を振りながら、訴えてみた。

 おお、と蒼汰はどうでもいいように手を離したが。

 性格的に好みではないとは言え、これだけのイケメン。

 しかも、あの霊と同じ顔をしている人に、こんなに強く手を握られると、落ち着かない気持ちになってしまう。