密室の恋人

「なんでだ。
 いいお話じゃないか。

 兄さんも、お前のような奴は、早く常識あるお嫁さんを貰って、結婚した方がいいと言ってたぞ」

 こちらに背を向けているうっすら頭部の薄い頭には見覚えがあった。

 やっぱり社長だ。

 伊月さん、社長にタメ口? とそのまま覗く。

「お前は感情と常識が欠落している」

 確かに、と思った。

「兄さんが甘やかすからだ」

 兄さん?

 社長のお兄さんというと、確か、うちのグループのトップでは。

 まさか伊月さんってーー。

 伊月グループの御曹司?

 いつぞや、たまたま自分と同じ名前なので、入社試験を受けてみたとか阿呆なことを言っていたが。

 なるほど、と変に納得する。

 どうりで、時折、金銭感覚がおかしくて、周りをドン引きさせてると思った。

 そのとき、面倒臭そうに首の後ろに手をやり、溜息をついた蒼汰がこちらを振り向いた。

 目が合ってしまう。

「まともな嫁さんを貰って、教育しなおしてもらえと兄さんも言ってたし」

「親が教育投げるなよ」

 そう言いながら、蒼汰はいきなりこちらにやってくる。

 ひいっ、なんですかっ、と思っていると、大股にこちらに来た蒼汰に、いきなり腕をつかまれた。