密室の恋人

 



 カフェオレは、やっぱりあれにしよう。

 凛子は、そう心に決め、歩き出す。

 大きな会議室と役員室しかないので、あまり人気のないフロアがある。

 廊下の一部が広くなり、休憩室風にソファと自動販売機などがある場所があるのだが、あそこにあるカフェオレに最近はまっているのだ。

 時間ないから、急いで上がろうっと、とエレベーターに乗った。

 まだ昼休みから戻るものも居ないのか、誰も乗っていない。

 人気のない密室で、つい、あの穏やかな笑顔を探すが、もちろん、居ない。

 困ったことに、あの伊月蒼汰が居ないと現れないからだ。

 でも、不思議なんだよな。

 別の場所で彼を見ても、現れないのに、あの人。

 そんなことを考えているうちに、目指すフロアに着いた。

 よしよし、時間、大丈夫そう、と思ったのだが、話し声が聞こえてきた。

 げ。

 この時間にこんなところに居るなんて、役員か秘書の人?
とそうっとエレベーターホールから窺う。

 よりにもよって、あの休憩室に誰か居るようだった。

 二人……。

 どちらの声も聞き覚えがある。

 一人は、伊月蒼汰だ。

「だから、それ、断ってよ」
と言っている。