密室の恋人

「陸人さん、お願いです。
 悪霊にならないでください」

「それは君次第だよ」

 凛子は彼を見つめて言った。

「貴方は私を好きなんじゃないですよね」

「え」

「貴方は、ただ、蒼汰さんを苦しめたいだけなんです」

「違うよ。
 僕は君が好きだから――。

 凛子ちゃん、僕は蒼汰なんて、もうどうでもいいんだよ。

 ねえ、僕と死んでよ。
 君を手放したくない」

 一緒に落ちよう、と両手を握られる。

「……いいですよ。
 私が最初に好きになったのは、本当は貴方かもしれないから。

 だから、蒼汰さんにはなにもしないでください」

 最初は戸惑いもしたけれど。
 今思えば、夢のように幸せだった。

 クルーザーに乗ってから、無人島で過ごしたあの三日間。

 でも、蒼汰さんを守れるのなら、私はこれでいい。

 プールサイドで蒼汰さんと食べた食事。

 にゃーに頭に乗られた蒼汰さん。

 もっと大事なことも、ときめいたこともあった気がするけれど。

 今はそんな小さなことしか思い出せない。

 でもきっと、そんな小さな日々の積み重ねこそが、私たちにとっての、なにより大切な思い出だから。

 凛子ちゃん、と陸人の手が肩にかかる。

 霊ではなく、まるで、陸人本人がそこに居るかのように、その手の重みが感じられた。

 エレベーターが急降下を始め、蒼汰の中に入っているのではない陸人の唇がそっと凛子に触れてきた。