『大丈夫。
凛子は僕が守るよ』か。
相変わらず、階段を使うしかない蒼汰は、微かに、もれ聞こえた声を頼りに、屋上へ続く階段近くまで来ていた。
二人に見つからないように、少し下の方に居たが。
凛子ね、ついに呼び捨てか、と思いながら、蒼汰は途中のフロアに消えた弥の背中を見送った。
下まで下りてきた凛子が、あれ? 蒼汰さん、とこちらに気づいて言う。
「見てたんですか」
「お前はどうしても、俺に仙人を殺させたいようだな」
「だから、仙人は殺せませんって」
と言った凛子の言葉に笑えなかった。
いつものように笑うべきだとわかっていたのに。
弥に腹を立てていたのではない。
彼の態度を見ていて、いよいよ覚悟を決めなければと思ったからだ。
あのとき会社に行かなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。
あの日、エレベーターが止まらなければ――。
人はほんのわずかな選択でその人生の行き先が決まってしまう。
だが、それだと凛子に会えていない。
あの事件がなければ、俺はこの会社を選ばなかっただろうから。
俺の選択は正しかった。
今はそう思おうと思う。
「……蒼汰さん?」
軽く凛子の頭を撫でたあと、振り返り、あのエレベーターの方角を見た。



