エレベーターに乗るだけで、なんだか緊張するな。
誰も居ないエレベーターに乗り込みながら、弥は思った。
こうして見ると、本当に密室だ。
いや、監視カメラはついてるけど、とそれを見上げる。
手を振ってみた。
「なにしてるの?」
すぐ側で声がして、びくりとする。
真横にグレーのスーツを着た男が立っていた。
顔はよく見えない。
「……こんにちは」
と言ってみた。
「こんにちは」
「こんにちは、悪霊さん」
「手嶋陸人だよ」
「陸人くん、いつもそんな感じのスーツ着てるみたいだけど、なんで?」
「これはパ……うちの父親が良く着てたスーツなんだ。
朝、よく、母親に甘えて、ネクタイ締めてもらっててさ。
僕もいつかあんな風な大人になりたいと思ってた」
愛情あふれる陸人の家庭が思い浮かんで、弥まで切なくなってきた。
腕を組んで壁にすがる陸人は言う。
「あんまり、僕に同情しないほうがいいよ。
引っ張られるよ」
「自分で言う?」
と弥は苦笑いする。
なにかこう、あまり憎めない感じのキャラクターだ。
凛子がその笑顔に惚れたというだけのことはある。
まあ、あくまでも、蒼汰の仮面をかぶって、の話だが。



