あの、いつか自分と悪霊が痕をつけた胸の上の辺りが、うっすら黒ずんでいた。

「お前、ほんっとうになにもされてないか。
 寝てて気づいてないなんてことはないか」

「それは幾らなんでもありませんよ」

 まあ、睡眠薬も酒も飲んでないのだから、それはないか、と思う。

 だが、その痕が気になった。

 微かにだが、口づけた痕があるような。

 凛子にさえ、気づかれないように。

「あいつ、悪霊じゃないかもしれないけど……」

 悪霊じゃないとしても。

 本気で凛子を好きなただの男なら、ある意味、悪霊よりタチが悪い。

 このまま、なにも起きなければいいが。

 そう思いながら凛子に言った。

「今日、もし、早く上がれたら、お前のドレスでも見に行くか」

「はい、楽しみですっ。
 でも、無理しないでくださいね」

 仕事が忙しいのを察してそう言ってくる。

「……大丈夫だよ」

 そう囁き、凛子を膝に抱き上げる。

 そのまま、口づけた。

 ずっとこうして居たい。

 会社にも何処にも行かずに、こうして凛子と。