蒼汰はテーブルの上の黒い携帯を見つめていた。
鳴らないな。
あの女、行かない、と言っても、引き止めもしなかった。
なんでですか、とも言わずに、しょんぼりしていた。
ちょっと胸が痛む。
だが、気になることが多すぎて。
それに今は、自分が凛子の側に居るのが最も危ない状態のような気がするのだ。
あのとき。
あのエレベーターが止まった日。
陸人は激しく自分を罵った。
だが、それが彼の本心ではないのは明らかだった。
陸人は胸を押さえ、苦しそうで。
あんな小さな子が死を前にして、家族の誰も居ない場所で。
平静で居られるわけがないと幼心にも思っていた。
陸人になにもしてやれなかったことが、ずっと引っかかっていたのだと思う。
だが、今は、心の底から願う。
俺が悪かった、陸人。
坊主千人呼んで経をあげてやるから、頼むから、俺から出てってくれっ。
凛子は人が良すぎる上に、もともと陸人の方を好きだったようだ。
上村より遥かに油断がならない。



