密室の恋人

 


 女性秘書、谷村が日焼け止めを貸してくれ、それを塗り込むと、呪いの文字は消えた。

 凛子が、
「口紅でも落ちますよ。
 その呪いの文字の上をこの赤い口紅でなぞったら……」
とポケットから口紅を出してきたので、

「やめんか」
と払う。

 このうえ、口紅で『呪い』とか額に書かれたくない。

 ともあれ、無事に消えて、蒼汰は凛子と並んで階段を下りた。

 ひとつ溜息をつくと、先ほどからの出来事を締めくくるように凛子に言った。

「呪いはやめろよ。
 まあ、俺もお前の過去の話なんて、聞きたくないけどな」

「私に過去なんてありませんよ。
 蒼汰さんにも過去なんてない方がいいです。

 ……いや、もうなにも言わないでくださいっ」
とまた半泣きになり、目をそらしてしまう。

「……言ってないし。
 いきなり泣くな」

 そう言いながら、蒼汰は凛子の頭をくしゃくしゃっと撫でかけ、その手を止めた。

「そういえば、凛子。

 さっき、去り際、社長に、結婚前とは言え、あんまり社内でキスとかするな、風紀が乱れる、と言われたんだが。

 俺は今、してないよな?」

「はい?」
とこちらを見上げる凛子の口許が多少強張っていた。