密室の恋人




 蒼汰にプロポーズされたあのフロアに凛子は来ていた。

 今、別のフロアで会議中で、役員も社長も居ないはずだった。

 蒼汰と並んでソファに腰掛ける。

 いや、中身は蒼汰ではないようだが。

 黙ってあの自動販売機を見ていると、彼は、
「ねえ、凛子ちゃん。
 なんで僕の名前」
と訊いてくる。

「……社長に聞いたんですよ」

 事情は訊かずに教えてくれました、と凛子は膝で頬杖をつき、溜息をつく。

「千尋さんを今、刺激しないでください。
 上村さんを諦めたばかりなのに」

 どうやら、あの停止したエレベーターの中で、なにかがあり、彼、手嶋陸人(てしま りくと)が蒼汰の身体を乗っ取ったようだった。

「うん。
 ごめんね。

 でも、楽しかったよ」
と彼は言う。

 楽しかったって、千尋さんを誘惑するのが?

 こいつ、上村さん並みのすけこましか、と思っていると、彼は全然違うことを言った。

「蒼汰の従兄弟か。
 そんな風にでも、僕がこの世に存在できればいいのに」

「……陸人さん」

「呼び捨てでいいよ。
 さっきみたいに」
と陸人は笑う。