密室の恋人

 そう素っ気なく言い、行こうとしたが、

「あれ?
 蒼汰の魅力って、その程度なんだ」
と彼は笑う。

 うん? と千尋は足を止めた。

 やはり、なにかが変だと思ったからだ。

 だが、彼はそんな千尋の腕をつかみ、抱き寄せる。

「ちょっ……。
 なにするのっ」

 蒼汰は千尋を間近に見つめて笑う。

「どうして、赤くなってるの? 千尋さん。
 蒼汰ってその程度なんでしょ?

 ……そうだ。
 ねえ、キスしてあげようか」

 そしたら、言うこと聞いてくれる?
と耳の側で囁いてくる。

 動けないでいる千尋に顔を近づけ、蒼汰は言った。

「だからね、もう一度、上村さんのところに行ってよ。
 今度はホテルから帰らないで。

 お願いだよ、千尋さん」

 そこで、千尋は気づいた。

 そうだ。
 伊月くんは私のことを千尋さんなんて呼ばない。

 そう思ったとき、鋭い声がした。

「陸人(りくと)!」