密室の恋人




 なんだか上が騒がしいわね。

 そう思いながら、洗面所から出てきた千尋が廊下を歩いていると、誰かが階段の方から手招きしていた。

 手しか見えない。

 あまり見覚えのない手だ。

 なんだ? と思っていくと、伊月蒼汰が壁の裏に居た。

「こんにちは。
 千尋さん」
と微笑みかけてくる。

「どうしたの、伊月くん。
 凛子なら……」

「凛子は今はいいよ。

 ねえ、ちょっと来て」

 蒼汰は千尋の手をつかみ、階段の方に引きずり込む。

「千尋さん、頼みがあるんだけど」

「頼み?」

「上村さんと別れるのやめてよ」

「別れるもなにも付き合ってな……」

 笑顔で蒼汰はまだつかんでいた千尋の手を強く引いた。

 自分に向かい、よろけた千尋を胸で受け止め、蒼汰は言う。

「迷惑なんだよ。
 上村さんに、凛子ちゃんの周りをウロウロされて」

 いきなりそう言い出す蒼汰に違和感を感じながらも、千尋は彼から離れ、言い返した。

「それは自分でなんとかしなさいよ。
 それで、凛子が貴方から離れるのなら、貴方の魅力がそれまでってことでしょ」