密室の恋人

 



 新田が居なくなったあとも、蒼汰はまだ、エレベーターの前に立っていた。

 彼の言った言葉が強く頭に残っていたからだ。

 凛子を疑うわけではないが、弥のことは自分も好きだ。

 だからこそ、彼が凛子に気がある風なのを脅威に感じる。

 そのとき、誰も押していなかったのに、唐突に空のエレベーターの扉が開いた。

 誰も居ない。

 エレベーターの床の上には誰も立っていない。

 なのに、エレベーターの奥の鏡には、その鏡に向かって立つ男の姿が映っていた。

 見たこともない若い男。

 いや……

 いや、あの顔は……。

 蒼汰は思わず、エレベーター内に足を踏み入れていた。

 その瞬間、扉が閉まる。

 だが、蒼汰はそれにも気づけないまま、鏡に映った男を見つめていた。

 グレーのスーツを着た若い男。

 こちら見て、少し笑う。

 鼓動が速くなる。

 こんな人間、会社には居ない。

 そして、このエレベーターに鏡はない。

 いや、昔、見たことがある気がする。

 それは、自分がまだ子供で、此処に遊びに来ていた頃――。